Yuichi Murata's Engineering Blog

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デスマーチを乗り越える――乱気流にも耐える翼を手にするには

デスマーチ

ソフトウェアプロジェクトは戦争に似ている。たくさんの不確実性を抱えている。たくさんの予算を必要とする。ソフトウェアプロジェクトにはチームメンバーという部隊を抱えて挑み、ステークホルダーという味方 (しばしば敵対関係になることもある) と共に立ち向かわなくてはならない。この複雑性が原因ですべてのプロジェクトは最初に計画したようには行かない。悲しいことに「デスマーチ」と呼ばれるような状況に陥ることすらある。

この記事では、どの様にデスマーチを乗り越え、さらにその経験をテコにして我々エンジニアのキャリアに活かすかについて話したい。

しなやかな翼

皆様が初めて飛行機に搭乗したときはどのような体験だっただろうか。自分は 12 歳のときに初めて飛行機に搭乗した。それはとても恐ろしい経験だった。自分は窓際の翼を見ることができるシートに座っていた。旅の途中、その翼がうねるように波打っているのを見ていてとても恐ろしくなった。強風が吹くたびに大きく揺れるのだ。これは科学をまともに知らない 12 歳の男の子には恐怖以外の何物でもなかった。今にもこの翼が2つに折れて、上空 10,000 メートルから放り出されるのではないかと心配したものだった。

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Photo by Arnold Antoo on Unsplash

高等専門学校に入学してから、自分は物質の剛性について学んだ。今では、翼が「揺れるから安全」なのだということがわかる。しなやかな物質はしなることによって、力を分散させ、その結果簡単には壊れないようになっている。

このアナロジーは心理学にも成り立つ。しなやかな考え方は人生の難しい局面を乗り切るにあたってとても良い資産になりうる。しなやかな考え方を持っていれば、難しいプロジェクト、デスマーチでさえも乗り切ることができる。自分は過去 2 年間、たくさんの心理学トピックに付いて学んだ結果以上の結論に至った。 しなやかな考え方を手に入れるためにはいくつかのアプローチがある。

成長マインドセット

Carl Dweck 博士は世の中には2つのマインドセットが存在することを発見した。硬直マインドセットと成長マインドセットだ。硬直マインドセットは、人々の能力は生まれつき定まっているもので抗うことができないというものだ。一方で成長マインドセットは、人の能力は自分の努力次第でどこまでも伸ばすことができるという考え方だ。 彼女の研究では、成長マインドセットを持つ子どもたちは喜んで難しいパズルにチャレンジした。彼らは難しいチャレンジに臆することはなかった。チャレンジこそ成長のための鍵だという認識を持っていた。一方で硬直マインドセットを持つ子どもたちは、難しいパズルへの挑戦を避けるような振る舞いを見せた。彼らにとって能力は生まれつきに依るもので、失敗をとても怖がっていた。なぜならば、そこで失敗すれば、それは人生を通して負け犬であることの証明になってしまうからだ。あなたの想像するとおり成長マインドセットを持つ人々のほうが、積極的に挑戦をし、失敗から学ぶため、成功する確率が高い。

成長マインドセットは単純に失敗に強いということではない。そうではなくて、彼らは失敗を簡単に受け入れることができるのだ。その結果、より多くのチャレンジを行い、たくさんの失敗をして、そこからたくさんを学ぶ。

Carl Dweck 博士の本から詳細を学ぶことができる。この本から、成長マインドセットの良い側面と、人間の能力が生まれつきによらないことを学ぶことができる。

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マインドフルネス

マインドフルネスはしなやかな翼を手にするもう一つの方法だ。マインドフルネスは、あなたの置かれた状況を客観的に観察できる、あなたのこころの状態を指している。大きな失敗をしたときに、週末に Netflix のドラマでも見ているかのような気持ちで、客観的に自分自身を見ることができるのだ。これは状況をパニックに陥らず分析するのに役立つ。失敗を物ともせず、落ち着いて失敗から学ぶことができる。

マインドフルになるための簡単なトレーニングが「瞑想」だ。自分は一日 20 分の瞑想習慣を過去 1 年ほど続けてきた。以前に比べると、恐怖や怒り、心配といったネガティブな感情を処理するのがだいぶ楽になったように感じている。マインドフルネスや瞑想が心理的疾患や、脳の灰白質濃度を増加させると言った科学的根拠も見つかっている。こうした科学的根拠もあることから、自分はよく人に瞑想習慣をつけることをおすすめしている。

マインドフルネスに関する書籍や記事はたくさんある。以下の本は特に Engineer や Engineering 組織を改善する観点から役に立つのではないかと思う。

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セルフコンパッション

セルフコンパッションは Kristin Neff 博士によってもたらされた心理学上の概念である。他の人に対する共感と同じ様に、セルフコンパッションは自分自身に対する思いやりを発揮するという考え方である。

我々人間は失敗を犯したときに、自分を自己評価したり否定的になりがちである。セルフコンパッションはそうする代わりに、自分の悪い部分もひっくるめて受け入れるという考え方である。セルフコンパッションはマインドフルネスととても近い関係にある。両者は現実をそのまま評価することなく受け入れる考え方である。セルフコンパッションは、これに加えて自分自身に対する思いやりをもつ考え方である。

セルフコンパッションは大きな挑戦をするときには特に重要である。大きな挑戦をするとき、あなたはいくらか失敗しなければならない。もし失敗をしていないのなら、それは何も挑戦をしていないということであある。セルフコンパッションは失敗を受け入れ、そこから最高の学びを得ることを可能にする。

自分は多くのミスをおかす類の人間である。自分は自分の失敗に対してとても反応的な人間であった。最近は間違いを犯したときには、セルフコンパッションの概念をとにかく思い返すようにしている。この考え方は自分を落ち着かせて、失敗から効果的に復帰することを可能にしてくれる。

Kristin Neff 博士の書籍については以下をご覧いただきたい。

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しなやかな翼で高く飛び立つ

この記事では厳しい状況を生き延びるための心理学的なコンセプトをいくつか紹介させていただいた。自分はここ数年で何度か厳しい状況(ときにデスマーチのようなもの含めて) に遭遇したことがある。しかしながら、こうした概念を学んでいたおかげでより効果的に状況に取り組めたと思っている。

これらのコンセプトは人々が柔軟で失敗をものともしない、しなやかな飛行機の翼の様になることを可能にするものだ。もしあなたがダイアモンドでできた硬質な翼を持っていたとしよう。それはとても頑丈に見えるかもしれないが、乱気流を乗り切ることはできないだろう。ちょっとした衝撃であれば大丈夫かもしれないが、つよい衝撃が走れば真っ二つに折れてしまうだろう。

しなやかな翼はあなたをデスマーチのような厳しいプロジェクトにおいても立ち向かう力を与えてくれるだろう。そして、あなたはその経験をテコにししてより高く羽ばたくことができるだろう。

原文:

yuichi-murata.medium.com