Yuichi Murata's Engineering Blog

グローバル・エンジニアリング・チームをつくる

お前はクビだ!優れた技術リードが持つべきひとつの条件

f:id:yuichi1004:20210404052340p:image
今日は技術が持つべき、ひとつの条件について、自分の考えを話したいと思う。それは「ある特定の人物」をクビにする能力である。

金持ちはますます金持ちになる

資本主義社会に対する一つの批判は、金持ちがますます金持ちになることである。金持ちは自分の資本を用いて割の良い商売を行い、更に儲ける。貧乏人は、誰にでもできる割の悪い商売にありつく。こうした貧富の差は度が過ぎると社会が不安定になり、社会が上手くいかなくなる原因となる。「世界はシステムで動く」の著者ドネラ・メドウズは、これを自己強化ループの典型例として紹介している。つまり、問題は時を経て次第に加速していくのである。

これは金銭的資本に限った話ではない。技術者の経験にも同じ理屈が当てはまる。経験豊富なエンジニアはその知識を活用して難しい問題の解決にあたる。その過程で更に多くの経験と知識をつけていく。その仕事ぶりを聞きつけた人たちが、更に挑戦的な仕事を持ち込んでくる。こうして、優秀なエンジニアはますます優秀になっていく。

一人勝ちはチームをダメにする

個人のキャリア作りという観点でこれは良いことである。一方、チームづくりという観点では少し慎重になる必要がある。一人勝ちはチームをダメにするからだ。

自分には今でも尊敬するシニア・エンジニアがいる。信じられないレベルで広い範囲の経験を持ち、深い知識を持つ。障害が起きれば豊富な経験に基づく直感で素早く被疑箇所にあたりをつけ、常人には考えをつかないような創造的な打ち手で問題を解決してしまう。

チームは高い成果を上げ続けた。だが、チームは彼が離れるタイミングになって、大きな問題を抱えた。次を担う人材が十分に育っていなかったのである。それは、彼がありとあらゆる問題を解決してしまっていたからである。次を担う世代が十分に経験を積んでいなかったのである。

自分は彼から二つの大切なことを学んだ。一つはエンジニアとしての知識と経験で、それはいまの自分の血肉になっている。もう一つは、自分がチームにとってかけがえのない存在にはなってはいけないということだ。

優れた技術リードの条件

自分の考える、優れた技術リードが持つべきたったひとつの条件、それは「自分をクビにする能力」である。自分の手柄を積極的に手放し、後進のために機会を作る。そして、自分をクビにする。この言葉を三年ほど前、エンジニアリング・リーダーシップの勉強会で聞いた。その強烈な言葉が脳裏に焼き付き、常日頃から意識するようになった。


自分はこの言葉を意識して仕事をするようになり、新しいチームを作っては何度も自分をクビにした。それは勇気がいることでもあった。来年には飯の種がなくなってしまうかもしれないからだ。また、「これは失敗するかもしれない」という不確実な状況において、大胆に仕事を任せなければならない局面もあった。仮に失敗したとしても、責任をとり全力で支援をしなければならない。大失態をやらかして、頭を下げて回ったこともある。

だが、不思議なもので、チームが経験を積み自走する状況になると、自然とより大きな機会に恵まれるのである。またそうした大きな機会に見舞われた時、自信を持って今の現場を離れることができるのだ。すでにそこにはチームがいるのだから。

ウォルト・ディズニーの CEO であるロバート・アイガーはこう言っている。

優れたリーダーシップとは代わりのきかない存在になることではない。他の人を助けて、あなたの代わりになるよう支援することだ。彼らを意思決定に参加させ、彼らが身につけるべきスキルを特定し、身につけるのを支援しよう。そして、彼らが何故次のステップに行くことができないのか、時に正直に話す必要がある。

あなたをクビにしよう。それが結果的にあなたの次のキャリアを作るのだ。

 

英文記事: