Yuichi Murata's Engineering Blog

グローバル・エンジニアリング・チームをつくる

エンジニアよ、プロダクトアウトになるな。マーケットインたれ

気がつけばいまの組織でもだいぶ古株 (それでも 3 年だが…) になってきて、シニアなお仕事をする機会が増えてきた。

その一つにアーキテクチャのレビューがある。様々なプロジェクトのメンバーの上げてくる、新たなアーキテクチャデザイン、技術選定の提案に対してフィードバックをして意思決定を承認する。レビューを通じて斬新的にデザインを改善していける案件もあれば、根本から手を入れなければならないケースや、場合によっては実施自体を止めたりするような決定をしなければならない局面もある。

様々なレベルのエンジニアが様々な新たなデザインを持ち寄り、レビューを通じて話すうちにあることに気がついた。 この世には二種類のエンジニアがいるようである。

プロダクトアウト型のエンジニア

ひとつはプロダクトアウト型のエンジニアである。

このエンジニアは特に中途採用で組織にオンボーディングした直後に、その個性を発揮する傾向がある。 自分の実績や前職での経験に誇りを持っている。実際、高いスキルをもっていて、そのスキルを活かして新しい会社で何をできるかを常に探している。 常にアンテナをはっており、新しい技術を学んでいる。そして新たに学んだ技術を、積極的に自分の仕事に活かそうとする。 理想の職人像であり、自らの刃を研ぐ姿勢には見習うべきところも多い。

このタイプのエンジニアの問題解決はソリューション志向になりがちである。問題の定義や解決策の方向性が、その人の持つ強みの方向に引きずられる傾向がある。方向性が顧客の求めるものと一致する場合爆発的なアウトプットを出すが、その方向性が噛み合わないとうまく行かなくなる。

その解決策が「やりすぎ」になる傾向もある。それほど困っていないことを問題として定義して、解決策を提供する。確かに物事は改善されるかもしれない。だが組織には必ず優先事項というものがある。限られたリソースを重要性の低い物事に振り向け、本質的な課題は手つかずになる。

マーケットイン型のエンジニア

もう一つはマーケットイン型のエンジニアである。

このエンジニアは一見キャリアに一貫性がない。その時その時に必要とされている仕事をこなす。特定の技術や領域にこだわりを持たず、幅広い技術経験を持っている。 様々な人と話し、組織のゴールを理解し、何が成果につながるのかを見定める。そして、成果につながる要素技術を見定め、チョイスしていく。足りない知識は自ら学ぶ。それぞれの技術に詳しい友人や同僚を沢山もち、必要に応じて彼らの意見を仰ぐ。

この手のエンジニアは顧客や意思決定者との会議において強みを発揮する。本当の問題をきちんと理解して、技術的な解決策に落とし込んでくれるので、顧客との信頼関係を築くのがうまい。技術的な問題が発生したときに、顧客に状況や対策の説明をするのもうまい。

仕事は作るもの、ただしいい仕事でなければならない

昔から「仕事は作るものだ」とよく言われる。全くそのとおりだと思うのだが、ここには大事な前提がある。作り出される仕事は「良い仕事」であるべきということだ。

マーケットイン型のエンジニアというのは、一言でいうと「良い仕事」を作るのが得意な人である。組織が本質的に解決すべき課題を見つけて、最適なソリューションを定義する。

新しい仕事をつくったとしても、それが高い成果につながらなければ価値を産まない。最悪の場合、全く成果につながらない「悪い仕事」を作り出してしまう人もいる。プロダクトアウト型のエンジニアには残念ながら「悪い仕事」を作り出してしまうことがあるように思う。

エンジニアよ、マーケットインたれ

技術者というロール自体がそもそもシーズから発足しているため、一概にプロダクトアウトな姿勢が批判できるのかという気もする。 そもそも、マーケットイン/プロダクトアウトはゼロイチに語れるものではないと思う。同じ技術者の中に 2 つの人格が共存しうる。 ただし、我々が成果を上げるために仕事をしていることを考えると、マーケットインの姿勢がより重視されるべきなのではないかと思う。

では、翻って自分はと振り返ると多分に「プロダクトアウト」な仕事をしているように思う。他人のふり見て我が身を直せ。組織のため、お客様のため、世の中のために何をすべきかを常に忘れないよう「マーケットイン」の姿勢をもって仕事にあたりたい。