Yuichi Murata's Engineering Blog

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読書レビュー: 学習する組織--システム思考で未来を想像する

年始の時間を使ってガッツリ「学習する組織--システム思考で未来を想像する」を読んだので、ここに感想を纏めておこうと思います。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

ざっくりまとめると

組織は、システム思考を用いて自分たちの組織が置かれた状況を学習することによって、より良い未来を作れますよという話でした。

システム思考というのは、この世の中の様々な要素をシステムと捉えてそれらの相互作用をモデル化して理解していくアプローチです。分かりやすい例を本書から拝借します。安全性に責任を持っているエンジニアリングチーム A が安全性向上のために部品を追加します。すると、車体重量に責任を持っているエンジニアリングチーム B がその他の部分で重さを削ろうとするのですが、これが安全性を奪ってしまうのです。エンジニアリングチーム A と B はお互いの依存に気づかず長年足を引っ張りあってきました。しかし、これらの依存関係をシステム思考を用いて視覚化して初めて、お互いの依存を両者が理解することができ、真の解決策になりうるアプローチが取れるようになったのです。この「システム思考を用いて視覚化することによって理解する」ことを、本書では組織学習と言っているようです。

感想

本書には組織学習をすすめるにはどうしたらいいかという部分に大部分が割かれていますが、個人的には「システム思考を用いて視覚化することによって理解する」ことの重要性が一番の発見でした。組織上の課題にも、純粋にエンジニアリング上の課題にも使える考え方だと思いました。また組織上の課題は、経営陣・エンジニアリング両者で言葉が異なり誤解を招くことが多いと思うのですが、こうした端的なモデルを通じてコミュニケーションをしていくと誤解のないコミュニケーションができるんだろうなぁと思いました。年明けから早速実践に活かしていきたいと思いました。

一方で、どう組織学習を進めるかの部分に関しては、はっきり言って分かりにくかったです。「自己マスタリー」「メンタルモデル」「共有ビジョン」「チーム学習」そして「システム思考」の 5 つの原則をつかって組織学習を進めましょうという話なのですが、例えば自己マスタリーとは何であるか?ということが明記されておらず頑張って読み解かなければなりませんでした。今回は邦訳を読んでいたのですが、おそらく原文を読んでいたら理解できなかっただろうと思います。

後半は様々な事例をベースにどのようなモデルをどの様に見出して、どの様に問題を解決していったのかが豊富に書かれています。読み応えはありますが、演習問題とその解説を読む感覚で読んでいくとインプットした知識をどう使っていけばいいのか分かりやすいように思いました。

原著は 1990 年とそれなりに古典です。それ故にかなり本質的な知識が詰まっていると思います。結論として、「組織の問題解決」に携わる人にはぜひおすすめしたい一冊だと思います。