Yuichi Murata's Engineering Blog

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もう辛くない~エンジニアの目標設定を楽しくする数値化の技術~

みなさん、目標設定で苦戦したことありませんか?自分はかつては目標設定にその意味が見いだせず、かといってときに自分の「お給料」を決めてしまうこともあるため蔑ろにする事もできず、ただただ苦行として苦しんだ時期がありました。辛い目標設定をどうやったら楽しくする話を科学的根拠とともにお話したいと思います。

元号が令和に変わり 5 月に突入してしまった、いまさら、目標設定について語ってももう決まってしまったよという人も多いと思います。しかし、この記事では「実はまだ遅くないんです。むしろ今から始めることが大切なんです。」という話をしようと思います。

まず結論から先にいいますと、目標設定を楽にするためには「適切な『数値』を『事前』に見つけておく」ことです。何をいまさら、と思った方も多いと思います。『事前』にという部分がミソです。この『事前』にの部分ができていないから目標設定が辛くなるのです。

なぜ「数値化」するのか

目標は数値化してください。何故かと言うと、仕事が「楽しくなる」からです。

すごく主観的な話に聞こえるかもしれませんが、これには科学的な根拠があります。2011 年、ハーバードビジネススクールテレサ・アマービル教授らは 7 社・238名から収集した 12,000 日分の日報を分析した研究ににて、仕事におけるモチベーションを上昇させる最も重要な要素は「小さな勝利 (Small Win)」であると結論づけています [1]。

人は、自分が重要だと思っている仕事が進捗したことを認識したとき、仕事へのモチベーションを最も高めるのです。そしてこの進捗は大きなものである必要はありません。小さな進捗を日々実感することが大切なのです。

数値目標の利点は、進捗をこまめに確認できることです。昨日より今日、先月より今月より数値が上がっていく様子を都度確認できれば、そのたびに「小さな勝利」を確認でき、仕事が楽しくなるという理屈です。仕事における楽しさの重要さは先に述べたとおりです。

またアマーベル教授によると「小さな勝利」を促す 7 つの要素として 1 番目に「明確な目標設定」を挙げています。数値目標はまさしく仕事のモチベーションを高めるにはもってこいなのです。

明確な短・長期間の目標はチームに具体的な道しるべをもたらし、それが彼らの進捗を際立ったものにする。矛盾した優先順位づけや、不明瞭で、やりがいのない、恣意的に揺らぐ目標が掲げられたとき、人はいら立ち、ひねくれ、モチベーションが低下する。無駄な努力をして時間が浪費され、仕事の質が低下する テレサ・アマビール,スティーブン・クレイマー,中竹竜二. マネジャーの最も大切な仕事95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (Japanese Edition) (Kindle Locations 2121-2124). Kindle Edition. 』

目標の数値化は設定が面倒かもしれませんが、その後の仕事の楽しさと成果に返ってきますので、時間を投資してでも行う価値があるのではないでしょうか。

なぜ「事前に」行うのか

目標設定を目標設定期間に入ってから行う人が多いですが、目標設定期間前に数値を探しておくことをオススメします。妥当な目的を簡単に設定できるようになるからです。

例えば今期の目的が「アプリケーションが品質改善」だったとしましょう。そして達成基準を「Major バグチケット 20 件以内」と設定したとします。ここで「そもそも 20 件という数値が本当に妥当なのか問題」が発生します。例えば現状 40 件のバグチケットがあったとしても、継続して件数が増え続けているのか、横ばいなのか、減少しているのかによって「20」の持つ難易度は全然変わってきます。この問題は特に、目標管理を評価制度とリンクしている場合厄介です [2]。評価の妥当性を保つために上司、そのまた上司、はたまたその他部門の偉い人などから「その目標は妥当なのか?」とツッコミを受けやすいからです。

ところが過去数カ月分のバグチケット数の推移がデータとして記録してあれば話は変わります。過去のデータを事前に記録しておけば、そのデータをプロットすることによって、評価期間の終了時に現状の延長線で期待される成果、現状を大きくブレークスルーしないと達成不可能な成果を簡単かつ客観的に示すことができます。

結論

以上述べたとおり、目標設定を楽しくするには「目標として使えそうな数値を事前に探しておき、過去のデータを元に達成基準を設定する」ことです。数値化によって仕事が楽しくなり、過去のデータを元に目標を決めることで誰の目にも納得感のある目標を簡単に決めることができます。

多くの企業が目標設定期間を終えた今、今季の目標については手遅れになってしまっている部分はあるかもしれません。仮に今期の目標が既に変更できなくなってしまっていたとしても、今のうちから次の評価期間に使えそうな数値を日々ブレインストーミングしつつ、とっておきましょう。次の目標設定では、仕事を楽しくする目標をかんたんに設定できるようになると思います。

では具体的にどうやったら開発で使える数値を見つけることができるのか。この話は改めて別の記事で書こうと思います。

脚注

  • [1] MBO や OKR は能力開発や高い目標を達成するために設計された仕組みであり、そもそも評価制度と連動するべきではないという議論があります。個人的にはこれに賛成です。しかし、残念ながら MBO を主たる評価項目として用いる人事制度はまだまだ根強く存在するのではないかと思います。
  • [2] テレサ・アマビール , スティーブン・クレイマー, 中竹竜二, 樋口武志,マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力 (原題 The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work)

参考文献

マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力

マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力

yuichi1004.hatenablog.com