Yuichi Murata's Engineering Blog

グローバル・エンジニアリング・チームをつくる

仕事は楽しくなければならない科学的な理由

みなさん楽しく仕事をしていますか。最近のエンジニアリング組織を見ると従業員のモチベーションに気を配る職場が増えてきているように思います。それらは主に、より優秀な人材をキープするためだとか、楽しく仕事をしたほうが気分がいいなど、直感的な理由や組織リーダーの哲学によるものが多いのではないかと思います。

実は、仕事は楽しくなければならない科学的な根拠があります。

楽しいほうが人間は創造的になる

人間は「楽しい」ほうが創造的な仕事をうまくこなすことが実験で証明されているのです[1]。

ちょっと古いですが 1987 年にメリーランド州ボルチモア郡大学でこんな実験が行われています。33人の男子学生と83人の女子学生が集められました。一部の学生には「楽しい気分」になるようコメディー動画を 5 分間見せ、別の学生は「悲しい気分」になるよう強制収容所に関するドキュメンタリー動画を同じく 5 分間見せました。また、チョコレートバーをご褒美にを釣られたグループ、何も操作しないグループ、軽いエクササイズをするグループ、数学の映像を見せられるグループが用意されました。その後これらのグループに、『画鋲の入った箱、キャンドル、マッチを渡し、壁にロウを垂らさず固定せよ』という創造性を図るための古典的な試験 (ドゥンガーのろうそく問題)に挑戦してもらいました。

結果は、モノで釣っても全く成功率は上がらなかったのにもかかわらず、楽しい動画を見たグループのみが明らかに問題解決に成功していたというものでした。楽しい映画グループの成功率は 58 %、数学の動画グループは 11 %、悲しい動画グループは 30 %、チョコレートバーグループが 25 %、何も操作しないグループが 16 %、エクササイズをしたグループが 26 % の確率で問題の解決に成功していました。実験結果をカイ二乗検定で検定すると、数学の動画グループや何も操作しないグループに比べ楽しい動画グループが優位に問題を解決することができました。また、チョコレートバーグループが何も操作しないグループに比べて優位な成功率を収めなかったことも分かっています。

類似の実験として、中学生を対象としたもの[2] や、医師を対象としたもの[3]もありますが、いずれも楽しい気分が創造性を高めていると結論付けています。

単純作業と創造的な仕事

かつての産業は単純作業が多かったため、仕事はつらくてもコツコツとこなすものであったのではないかと思います。極端な例を挙げると、軍隊の新兵訓令で教官が怒鳴りながら指導にあたっている様子が対象的な絵として想像しやすいかと思います。これは、創造性を発揮するよりも命令を着実にこなすことを求められているから機能しているのであって、創造性が求められるエンジニアリング業などの仕事には当てはまりません。身近な例として、SI 業界は昔からクライアントに詰められ、ストレスに耐えながら仕事にこなさないといけないイメージがあります。こうした環境はエンジニアの創造性を奪ってしまうのです。

まとめ

何となく皆さんが「仕事は楽しいほうがいい」というイメージは共有していたもののその理由は曖昧なものであったのではないかと思います。これらの科学的根拠に基づくと、創造的な仕事をするために我々はもっと仕事を楽しくしなければならないということです。

参考文献

  • [1] A.M.Isen, K.A.Daubman, andG.P.Nowicki, “Positive Affect Facilitates Creative Problem Solving,” Journal of Personality and Social Psychology 52 (1987)
  • [2] T.R.Greene, H.Noice, "Influence of positive affect upon creative thinking and problem solving in children", Psychological Reports 63(3): 895-898 (1988)
  • [3] C.A.Estrada, A.M.Isen, and M.J.Young, “Positive AffectI mproves Creative Problem Solving and Influences Reported Source of Practice Satisfaction in Physicians,” Motivation and Emotion 18 (1994)