Yuichi Murata's Engineering Blog

グローバル・エンジニアリング・チームをつくる

読書レビュー: 失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇

かの有名な「失敗の本質」のスピンオフ。戦場のリーダーシップ篇。我々ソフトウェア業界では、時々「戦場」とも言えるような悲惨な状況に直面します。そのような状況においてリーダーシップはどうあるべきかという問いに答えてくれる面白い一冊だったので紹介します。

失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇

失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇

本書で広範囲に渡って語られているのが「フロネシス」という、実践的な知恵に基づくリーダーシップです。本書が語るに『フロネシスは人間の究極の知。それは文脈に即した判断、適時・絶妙なバランスを具備した高度なリーダーシップである。このようなジャッジメントを、分析だけによって導くことはできない』とのこと。 一言でいうのならば「教科書的な知識よりも、現場の知恵」でしょうか。

確かに日々仕事をしていく中で、立派な知識や学歴・職歴を持った人たちが迷走とも言えるような意思決定を繰り返す中で、現場の中である種の「センス」を活用してリーダーシップをしている人達がいるように思います。

最近まで一緒に仕事をしていた優秀なエンジニアがいます。彼の意思決定は時と場合によってコロコロ変わるので、しばしば「一貫性がない」と批判の対象になっていました。だけれども、プロジェクトが進行するに当たって彼の指摘が的中するため、批判を受けながらも彼のリーダーシップは多くのメンバーに受け入れられていました。

これは一体何なのだろうと長らく思っていたのですが、なるほど彼の意思決定は「文脈に即した判断」なのだなと腑に落ちました。理論は数学的側面をもっているためシンプルです。例えば、アーキテクチャデザインのベストプラクティス的には A であることが広く知れ渡っている場合、デザインとしての解は A となります。ですが、例えばプロジェクトのメンバーがあまり成熟しておらず A を実装する力量がなかった場合、次善の策である B をとった方が正解となります。

とりわけ不確実性の高いソフトウェア業界において「文脈」を見抜き、「お利口な回答」に騙されず適切な道筋を示すことができるリーダーシップは大切だと思いました。